ニチハ「パミール」は販売終了(2008年)から15年近く経過しております。
数年前までニチハによる個別の補償もありましたが、名古屋地裁で争われていた裁判が数年前に結審し和解が成立してからは補償もされなくなったようで、パミールの改修工事は基本的にお施主様の負担になってしまいます。
弊社では2007年にニチハ「パミール」における不具合を発見し、多くのお客様の屋根でパミール改修工事に携わってまいりました。
ウェブで検索するとパミールの改修工事の事例を見ることができますが、その多くが金属屋根材によるカバー工法(重ね葺き)です。
しかし本当にカバー工法が正しいのでしょうか?
(施工前)
過去に塗装歴のあるパミールですが、屋根材端部は層間剥離による表面の浮き上がりが見受けられます。
パミールを剥がしました。
パミールに限らずスレート系屋根材はルーフィング材と屋根材との僅かな空間に結露が発生します。
この結露が原因でパミールを留め付けている釘(ラスパート釘)が錆びてくるのです。
この結露は外気と室内から上がってくる内気との温度差で発生するものです。
おそらくカバー工法をしてもこの現象はなくなることはないでしょう。
では結露で発生した水分はどうなるのでしょうか?
自然に消えるまで水は待ってくれません。
細かい水滴同士が繋がることで大きな水滴となりルーフィング材の上を流れていくのです。
ルーフィング材の上にだけ結露は発生するのではありません。
パミールは屋根材の裏にも結露が発生しております。
(パミール裏面の結露)
結露で発生した細かな水滴は大きな水滴となって流れ、その一部は屋根材を固定している釘付近にたどり着きます。
そして長い年月をかけて水の通り道をつくり、それがいずれ小屋裏へと落ちてきます。
小屋裏へ落ちた水分はいったん天井の断熱材に溜まります。
そこから溢れてきた水分がボードの上に進み、やがて天井にシミとなって表れてくるのです。
この現象が発生するまで恐らく10年以上はかかると思います。
「雨漏り」ではないにしろ、将来そのようなリスクのあるカバー工法(重ね葺き)が、屋根の改修工事として本当に正しいのでしょうか?
将来発生するであろうリスクとお客様のことを考えた場合、カバー工法が屋根の改修工事として正しいかどうか問われれば、私はやはりカバー工法ではなく「葺き替え工事」をお勧めしたいと考えております。
よって今回も葺き替え工事をお請けすることになったのですが、今回は建築基準法の制約をクリアさせるため既存の屋根材よりも軽い屋根材を使用することが必須条件でした。
【各屋根材の重量】
(金属屋根材)
・アイジー工業:スーパーガルテクト 5kg/㎡
・ニチハ:横暖ルーフS 約3kg/㎡
(アスファルトシングル)
・伊藤忠建材:オークリッジスーパー 約12kg/㎡
・旭ファイバーグラス:リッジウェイ 約10kg/㎡
・田島ルーフィング:ロアーニⅡ 約11.5kg/㎡
※カタログデータから算出(役物含まず)
パミールよりも軽い屋根材となると金属屋根材、又はアスファルトシングル系の屋根材となりますが、外壁取り合い部分の納まり(改修用雨押板金を使用することで起きる意匠的な問題)なども考慮し、既存の雨押板金が再利用可能なアスファルトシングル系の屋根材を採用することにしました。
アスファルトシングル系の屋根材は旭ファイバーグラスの「リッジウェイ」や伊藤忠建材の「オークリッジ」が代表的なのですが、施工後に表面を保護するための細かい石粒が風の影響を受け落下してくる(カタログでは施工後数か月で納まると記載されています)ため、今回はその症状が発生しにくい田島ルーフィング製の「ロアーニⅡ」を採用致しました。
(田島ルーフィング ロアーニⅡ)
棟部分は同質納まりとなっておりますが、板金役物で納めることも可能です。
カバー工法は既存屋根材撤去費や廃材処理費がかからないため、一般的に葺き替えと比較した場合には安く施工ができると言われております。
ただ将来的に雨漏りではないにしろ結露によるトラブルが発生することが想定されるのであれば、パミールやコロニアルなどのスレート系屋根材の改修工事でベストな選択はカバー工法ではなく葺き替えのほうが正しい判断となるのではないでしょうか?